”未来に行けたとして、「アップル社の人類への最大の貢献は何だったのか?」と尋ねたとしよう、その答えは「健康に対する貢献」だ。” - アップルCEO、ティムクック。
シリコンバレーのテクノロジー会社は、世界中でスマホを売りまくり、広告からの収入をあげながら、その豊富な資金の一部をヘルスケアの分野に投入している。
ヘルスケアは、テクノロジー会社が、既存産業をDisruptしきれていない数少ない分野の1つだ。
アメリカの医療は世界最先端と見られがちだが、医療保険制度の成り立ちの違いから、プライマリーケア(簡単に言うと、普段から診察し、相談に乗ってくれる身近な医師のこと)のカバレッジが弱いなど、他の先進国に比べて遅れている分野も多いとアメリカでは言われている。
逆に言うと、シリコンバレー的な視点からすれば、ヘルスケアはイノベーション次第で大きく伸びる分野とも言える。
今回の投稿では、ヘルスケア領域に積極的に進出しつつあるGoogle, Apple, Amazon, MicrosoftのBig 4のうち、Googleがヘルスケア領域においてどのような活動をしているか、VerilyというAlphabetの子会社に着目して、その一側面をあぶりだしてみたい。
2015年にグーグルがアルファベットを親会社にして組織変更を行ったのは有名な話である。AIが次世代技術の中核と宣言され、その旗印の下にGoogle Xなどの組織の下で研究開発プロジェクトとして運営されていたものの中で、有望なものが子会社として再編成された。
それまではGoogle Life Scienceと呼ばれていた組織は、この組織再編を契機に、Verilyという名前の会社になった。
VerilyとGoogleの開発した機械学習のモデルは、十分に訓練を受けた眼科医と同等の精度で糖尿病網膜症(注1)の診断を実施できるという。このシステムは欧州の機関から現場で使うことの承認が下りており、VerilyとGoogleは2019年2月に、慢性的に眼科医の数が不足しているインドの病院での導入を発表している。これは、Verilyの研究開発の成果が実験ラボから出て、現場に活用できるレベルにまでなったという意味で画期的なマイルストーンである。
Verilyがフォーカスしている分野は、糖尿病だけはなく、心臓病、パーキンソンなど、世界中で多くの人が苦しんでいる領域、そしてそれはとりもなおさず市場が大きく、インパクトも大きい領域である。
豊富な資金があっても、ヘルスケアは一朝一夕に解決策がでてくる分野ではない。FDAなど規制機関の承認プロセスも長い。実際、Google Xから派生したVerilyのプロジェクトの多くもまだ研究開発段階にあり、そのほとんどは公表されていない。
しかし、Study Watchと呼ばれる生体(biometric)データを採取するウェアラブルデバイスを通じて採取するデータを活用して心臓病を予防を試みたり、EHR( Electronic Health Record )と呼ばれる生涯医療記録データをDeep Learning を活用して将来的な予防につなげる特許を申請したり(注2)、旧態依然として高コストであった臨床試験にイノベーションを起こそうとしたりとその動きからはしばらく目が離せない。
(注1):とうにょうびょうもうまくしょう/Diabetic Retinopathy - 糖尿病の合併症の1つで視力低下を伴う。日本の中途失明原因の第2位とされる。
(注2):実際に特許を申請したのはGoogle
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