携帯電話やコンピューターなどがインターネットで繋がることで、一般のユーザーや、企業は、物理的な場所が離れたデータセンターでデータを処理したり、もしくはそこにデータを保存したりできるようになった。これが「クラウドコンピューティング」である。
gmailなど一般ユーザーが使うサービスでも、データはクラウド上で保存されるので、携帯でも自宅のパソコンでも、メールにアクセスが可能であり、携帯電話のような小さいなデバイス(エッジデバイス)でも、クラウドにあるGoogleの強力な検索エンジンを活用することができる。
また、企業が、新しいウェブサービスをローンチしたい場合、かつては自前でサーバなどを購入し何週間もかけてITインフラを構築する必要があったが、いまではAmazonの提供するAWSなどのクラウドサービスを使うことで、ほんの数分で何百、何千というサーバを稼働して必要なときに、必要なだけのサーバを低コストで使えるようになってきた。
クラウドコンピューティングの弱点
ただし、万能に見えるクラウドにも弱点はある。
クラウドからデータを取得するためにはインターネットにつなげる必要があるため、演算結果や必要なデータを得るのに通常は、ほんのわずかだが時間的なラグが存在する(このラグは”レイテンシー”と呼ばれる)。これはもし通信環境になんらかの不具合があれば必要なデータが必要なときに得られない可能性があるということだ。個人であれば、「なんかネットが遅いな」とイライラするぐらいで済むが、ユースケースによっては重大な事故に繋がる可能性がある。
例えば、自動運転でAI(人口知能)が障害物を認識し、危険度が高ければブレーキをかける指示を車に出す、というシステムがあるとする。この画像認識などの演算処理をすべてクラウドに任せていると、通信環境の不具合などの理由でその判断がほんの少しでも遅れると、大きな事故に繋がるようなケースだ。
また、もう1つ大きな問題は、クラウドとエッジデバイス間のデータのやり取りをインターネットを介して行うと、それだけ秘密データがハッキングされるリスクも高まるという点である。
エッジコンピューティングのニーズの高まり
こういった背景から、なんでもかんでも遠隔地にある何千台ものサーバ群を使ってクラウドで処理をするのではなく、”エッジデバイス”と呼ばれるユーザーの手元にある物理的なハードウェア側でできる処理はしてしまおうという「エッジコンピューティング」の分野が活発化してきている。
逆説的だが、あらゆるものがインターネットにつながるIoTの世界が広がれば広がるほど、むしろエッジデバイスにある脳みそ(CPUやGPU)で処理するニーズも増えてくる。ソフトバンクが今後爆発的に増えるであろうIoTデバイスで威力を発揮する低消費電力のCPU設計(アーキテクチャ)の知的財産を保有する英ARM社を買収した理由の1つもここにある。
GPU開発で大きく飛躍したNvidiaが、Jetson シリーズに力を入れ、「進化したAIをクラウドからエッジにつなげて再定義する」と述べているのも、加速度的に増えているエッジコンピューティングのニーズを反映したものだ。
もちろん、アマゾン、マイクロソフト、グーグルなどクラウドで覇権を争っているプレーヤーもこの分野に資源を集中している。これらの企業の戦略はクラウドからエッジまですべてを繋げて支配することにある。
だから、AmazonはAWSのクラウドサービスの一部をエッジデバイスで使えるようにするAWS Greengrass というエッジサービスを、マイクロソフトはAzure IoT Edgeソリューションを推し進めているのだ。
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